今年は家族の写真ばかり撮っており、それ以外では年末のふたご座流星群のみ撮影しました。今回、カメラを固定して撮影した 3000 枚以上の写真から、いかに 1 枚の流れ星の写真を探し出したのかについて説明します。
撮影まで
撮影日程
今年のふたご座流星群は、月明かりの影響がまったくないうえ、放射点が高い時間帯に極大を迎える絶好の条件でした。数ヶ月前から撮影を楽しみにしていたのですが、残念ながら当日は全国的に曇りもしくは雨の予報で、極大日当日の撮影は相当難しそうな情勢でした。極大の前日はまだ天気がマシそうでしたので、当日の撮影は諦め前日に撮影することにしました。
流星群によってどのように星が流れるかは大きく変わるのですが、ふたご座流星群は
- 明るい流れ星が流れやすい
- 大量に流れる
- 極大までじわじわと流れ星が増えていく
という特長があり、極大の前日でもそこそこ撮影出来るチャンスはあるかなと考えていました。ただし今回は都会の撮影を考えていたので、流れ星は相当明るくない限りほとんど写りません。それでもふたご座流星群ならば極大なら 1 時間に 2〜3 の流れ星は観測出来るのですが、今回は極大の前日ということもあり、1 枚でも撮れればラッキーくらいの気持ちでした。
流れ星向けのセッティング
こういう撮影にベストなカメラは、スチル撮影につよい高画素機です。というわけで今回も α7R IV を選び、なるべく流れ星を拾うためにレンズは広角の FE 24mm F1.4 GM にしました。三脚は Leofoto の LS-324Cで、レリーズはいつもの個人輸入したノーブランドのやっすいものです。安物ですが、ボタンによる物理スイッチしかないシンプルな構成なので、電池を気にする必要がなく安定性が高いので、お気に入りのレリーズです。三脚でカメラを固定して、同じ場所からレリーズ押しっぱなしの連写で撮影しました。
カメラのセッティングは迷いました。流れ星は明るくても一瞬で流れていくので、出来れば短いシャッタースピードで光を捉えたいのですが、短くしすぎるといくつか問題があります。
1 つ目は、ファイル数です。シャッタースピードが短いと、短い時間の連写でも大量の写真になります。特に今回は流れ星、撮影後のレタッチを考えると RAW で撮りたいところです。α7R IV の RAW ファイルは 1 枚 120 MB ほどあるので、128GB の SD カードだと 1000 枚ちょいしか撮れません(実測値で 1042 枚前後)。撮影は 1000 × 秒数になりますので、仮にシャッタースピードを 1 秒で撮影したら 15 分ちょいしか撮れない計算になります。
2 つ目は、連写の間のラグです。流れ星は長いものだと 1 秒ほど流れたりするのですが、シャッタースピードが短いと流れるタイミングが連写の隙間に入ってしまう可能性が高まります。連写とはいえ撮影間には一瞬の隙間が出てしまうので、そこで大きな流れ星が流れると残念です(ネットで見かけた例)。この悲劇の可能性を完全に排除することは不可能ですが、撮影時間が長ければ長いほど可能性は薄まります。
以上から、私は ISO 100、F/1.8、シャッタースピード 4 秒を選びました。4 秒であれば SD カード 1 枚で計算上は大体 1 時間 7 分弱の撮影が可能です。α7R IV は SD カードのスロットが 2 つあるので、入れ替えも含めて 3 枚分の撮影、およそ 3 時間半弱の撮影をすることにしました(連写のラグ等もあり、実際の撮影時間は 3 時間 40 分でした)。
流れ星の見つけ方
結論からいうと、この撮影で撮れた流れ星は 1 つだけでした。私がどのようにこの流れ星を見つけたのか、その方法をご紹介しましょう。
とりあえず比較明合成
まず、128GB の SD カードに入っている 1042 枚の画像を、SD カード単位で全部比較明合成します。カードの抜き差しでカメラの位置が動いてしまうので、比較明合成は SD カード単位でするのが良いでしょう。カメラがしっかり固定できていれば、比較明合成をしても地上の景色は動かず、星の動きや飛行機の動きだけが撮れるはずです。今回の例だと次のような画像になりました。
(残念ながら撮影中に雲が出てきたので、雲が大きく写り込んでしまっています。雲の裏に流れ星がある可能性もあるので、雲をうまく省きながら何度か比較明合成をしてみたのですが、今回は雲の部分には見つかりませんでした)
このように比較明合成をすることで、1042 枚に含まれているすべての光を 1 枚に集中させることが出来ます。比較明合成の特性により、この 1 枚において暗い空の部分は、1042 枚すべての写真において暗い空である、ということがわかります。この写真の中に流れ星の光が写っていなければ、そもそも全部の写真を調べるまでもなく流れ星がないことがわかります。
さて、色々な光の筋が見える画像ですが、星の軌跡とは違う方向に流れている光を目で探します。雲が多くて判別しにくいのですが、今回は左下のスカイツリーのところに、わかりやすく違う光の筋がありました。これは高い確率で流れ星のように思われます。もう一つ、わかりにくいですが、画面中央わずか左のビルの上にも斜めの光がありますが、これは自分の経験からして飛行機っぽいと思いました(後で確認したらやはり飛行機でした)。
注目している光を拡大してみました。こちらです。
では次に、この 1042 枚の写真のうち、どの写真にこの光が含まれているのかを特定しましょう。
半分だけ比較明合成をしてみる
今回、ファイル名でいうと DSC00816〜DSC01857 の 1042 枚の写真があるのですが、次はこの半分の 521 枚で比較明合成をしてみます。前半でも後半でも良いのですが、今回は前半の 521 枚、すなわち DSC00816〜DSC01336 の比較明合成をしました。その結果がこちらです。
その結果から注目していた光を探します。先程スカイツリーのところにあった光の筋がなくなっているのがおわかりになるでしょうか?これはすなわち、「DSC00816〜DSC01336」の間に注目している流れ星の写真はない、ということを示しています。よって、流れ星の画像は残りの「DSC01337〜DSC01857」の 521 枚の中にあるはずです。半分まで絞り込めました。
さらに半分にして比較明合成をする
では、次はさらに写真を約半分にして、DSC01337〜DSC01597 の 261 枚で比較明合成をしてみます。その結果がこちらです。
今回は注目していた光がありますね。ということは、この 261 枚の中に流れ星の画像があることがわかりますね。2 回の比較明合成で、1/4 まで絞り込めました!
さらに半分にして…を繰り返す
ここからは画像を貼らず、結果だけをお伝えしましょう。
DSC01337〜DSC01597 の 261 枚の中に流れ星画像があることがわかったので、次はさらに半分にして DSC01337〜DSC01467 の 131 枚の比較明合成をします。結果、流れ星は含まれていませんでした。よって、DSC01468〜DSC01597 に流れ星画像があると絞り込めました。
次はさらに半分にして、 DSC01468〜DSC01532 の 65 枚の比較明合成をしました。結果、流れ星が含まれていました。
次はさらに半分にして、DSC01468〜DSC01500 の 33 枚の比較明合成をしました。結果、流れ星は含まれていませんでした。よって、DSC01501〜DSC01532 の 32 枚に絞り込めました。
次はさらに半分にして、DSC01501〜DSC01516 の 16 枚の比較明合成をしました。結果、流れ星は含まれていませんでした。よって、DSC01517〜DSC01532 の 16 枚に絞り込めました。
次はさらに半分にして、DSC01517〜DSC01524 の 8 枚の比較明合成をしました。結果、流れ星は含まれていませんでした。よって、DSC01525〜DSC01532 の 8 枚に絞り込めました。
次はさらに半分にして、DSC01525〜DSC01528 の 4 枚の比較明合成をしました。結果、流れ星は含まれていました。
次はさらに半分にして、DSC01525〜DSC01526 の 2 枚の比較明合成をしました。結果、流れ星は含まれていませんでした。よって、DSC01527〜DSC01528 の 2 枚に絞り込めました。
2 枚まで絞り込んだので、もう比較明合成は必要ありません。 DSC01527 を確認したところ、探している流れ星が写っていました!
今回は、全部で 9 回の比較明合成で特定出来ました。もし手作業でされているなら、16 枚くらいまで絞り込めばあとは目で探しても簡単に見つけられるでしょう。
あとは Lightroom でレンズシフトの補正をして建物を真っ直ぐにして、高画素であることを利用してかなりキツめにクロップして、上でご紹介した画像となりました。
二分探索
今回は 1042 枚もの写真から、たった 10 回目視で確認することで目的の写真を選び出すことが出来ました。このような調べ方は「二分探索」と呼ばれ、log(総数)/log(2) 回の目視で目的の画像が見つかることが数学的に保証されます。
1042 枚を目視で探そうとした場合、つい見逃してしまったら、また 1 から探しなおすことになります。しかし今回紹介した二分探索を使えば、たった 10 回の目視の確認を注意深くやるだけで、確実に流れ星を見つけることが出来ます。
比較明合成が可能であれば、このテクニックが使えます。具体的には、カメラを固定して一切動かさずに連写した結果の中から、何か光っているものを探す時に便利です。流れ星が一番多い利用シーンですが、雷の撮影でも利用可能です。
このテクニックを使いこなせば、大量の連写から 1 枚の画像を選び出す作業が苦ではなくなり、こういった写真の撮影がとても楽しくなります。是非マスターしてみてください。
自動化システムのご紹介
この二分探索、計算が大変に思えるかもしれません。そこで私の作った Web サービス「スターペンギン」をご紹介します。これを利用すれば、頭を使うこと無く簡単に二分探索が出来ます!
このサービスは、ブラウザがあれば利用できます。ソフトのインストールは必要ありません。また、PC の画像をインターネットに一切アップロードせず、PC 内で合成をするので安心です。
スターペンギンに 1042 枚のファイルを放り込んで、まずは比較明合成をします。その出力の画面から、「二分探索を開始する」ボタンを選択します。
そうすると自動的に二分探索が始まります。この記事で紹介したのと同じように、まず 521 枚の比較明合成が始まります。そして、その結果を見て、目的の光が画像に含まれているかどうかをボタンで指示します。
今回は含まれていないので、含まれていないボタンを押すと、また自動で半分の 261 枚の比較明合成をしてくれます。人がやるのは、出力された画像を見て「含まれている」「含まれていない」を選択するだけです。今回だと 9 回このボタンを押すだけで、この記事にあったような流れ星画像を確定出来ます。これは、ものすごく便利です!
超高速な比較明合成
しかも、お気づきになられたでしょうか、このシステムでは 1042 枚の比較明合成がたったの 2 分 18 秒で終わっています。当然その後の二分探索における比較明合成の時間も、毎回半分になっていきます。普通に 1042 枚の RAW 画像を比較明合成をしようとすると、同じマシンでも 18 分 59 秒かかりました。
なぜこのような高速化が出来るのかというと、この比較明合成では RAW 画像を使っておらず、RAW 画像に含まれているサムネイル用の JPEG 画像を使って比較明合成をしているからです。その設定は、高度な設定のこのオプションから可能です。この「Test Flight」のチェックボックスをオンにすると、RAW 画像の中にあるサムネイル画像を比較明合成に利用します。
光が写っているかどうかを判断するのに、毎回美麗な RAW 画像の比較明合成をする必要はありません。サムネイル画像で十分に代用できるというわけなのです。この機能を持つ比較明合成のプログラムは、私のサービス以外に世界中で見たことがありません。大量の RAW ファイルから流れ星を探すための比較明合成にうんざりされている方には、ものすごく便利な機能になるでしょう。是非試してみて下さい!
書籍紹介
「スターペンギン: ブラウザ比較明合成ツール」は無料でご利用頂けます。ただ、今回の二分探索を含め、このサービスの色々な使い方を、拙著「都会で撮る 星の軌跡の撮影術」でご紹介しております。比較明合成について世界で最も詳しい書籍の一つであると自負しておりますので、もし興味があれば是非ご一読頂けましたら幸いです。