Kihira's テックカメラ

カメラ関係の知識・ノウハウなどの公開や、自分の作例や撮影に関する雑談など

ポータブル赤道儀ポラリエと180mm望遠レンズでアンドロメダ銀河を撮ってみた

一昨日の夜、雨上がりの快晴という星の撮影に絶好の条件だったので、宮ヶ瀬湖まで行ってアンドロメダ銀河を撮ってみました。

アンドロメダ銀河: α7R IV + Tamron 70-180mm F2.8
ISO 640 / 180mm / F2.8 / 30 秒 で撮影した 62 枚を加算平均合成、クロップ

この撮影は、ポータブル赤道儀「ポラリエ」関連以外には天体撮影用の装備を利用しておりません。望遠レンズもフルサイズで 180mm と常識的な焦点距離です。加算平均合成は Sequator、レタッチは Lightroom CC です。62 枚の画像を加算平均合成してノイズを減らすことでレタッチ耐性が大きく上がり、その結果かなりキツめのレタッチが可能になりました。

上記画像の上でマウスを動かしたり、もしくはスマホで左右にドラッグすることでレタッチ前後の画像を比べられます。ポータブル赤道儀を利用している以外では普通の撮影機材を利用しており、天体撮影においては最小に近い構成だと思います。天体撮影に興味のある方の参考になればと思い、今回の撮影の一連の流れを紹介します。

ポラリエで撮る天体写真の前提

赤道儀は地球の自転による星の日周運動を打ち消すように、装着したカメラ等を自転と同じ角速度で回転させる機械です。しかしオートガイダーなどを使った本格的な赤道儀とは違い、ポータブル赤道儀のポラリエを使用した長時間露光はなかなか難しいものがあります。極軸合わせなどで誤差を含んでしまうため、長時間の露光をするとどうしても星が流れてしまいます。

どの程度長時間の撮影が出来るかはセッティングや焦点距離、天体の位置など次第ですが、天体撮影の場合は高々 1 分くらいが限度だと考えるのが良いでしょう。私は 30 秒あたりを前提にしています。

30 秒の撮影では ISO をあげて(高感度で)撮影する必要がありますが、当然ながら ISO をあげるほどノイズが増えてきます。そこで、同じ条件で複数枚の写真を撮り、加算平均合成を利用することでシャープな写真に仕上げるのが前提になります。加算平均合成については過去のブログで紹介していますので、是非こちらもご一読ください。

まとめると、ポラリエで天体撮影する際には、

  • 短時間
  • 高感度
  • 複数枚

での撮影が原則になってくるかと思います。逆に言うと、高感度での短時間撮影は赤道儀の性能に大きく依存せずに可能ですので、そのメリットを活かすために加算平均合成を最大限利用する形になります。

機材紹介

カメラは Sony の α7R IV です。6100万画素数とフルサイズの中でも画素数の多いカメラで、画素数が多い分トリミング耐性が高いので今回の様なトリミング前提の撮影の場合には威力を発揮します。レンズは Tamron の 70-180mm F2.8 を選択しました。いわゆる望遠の大三元ズームレンズなのですが、値段も安ければ重さも信じられないくらい軽く、描画も十分に満足のいく素晴らしいレンズです。天体撮影は本来可能な限り短い時間の撮影が望ましいので、焦点距離よりも絞り値を重視しました。

α7R IV と Tamron 70-180mm/F2.8。合計たったの 1,390g

赤道儀は前述の通り初代ポラリエです。ポータブル赤道儀の代表的な製品ですが、傑作です。後継のポラリエUも素晴らしい製品だと思います。ポラリエに装着する自由雲台は Velbon のQHD-43 を使用しています。

ポラリエ(初代)と自由雲台

必須ではないのですが、これに加えて私はポラリエ用の極軸望遠鏡と極軸合わせ用の雲台を使用しています。これらを使うと極軸合わせの手間が大幅に減るので、重宝しています。

雲台(廃盤)とポラリエ用極軸望遠鏡。雲台は Vixen 社の極軸微動雲台とほぼ同等の機能

三脚は Leofoto の LS-324Cです。あとはレリーズですが、これも必須ではなく、カメラのインターバル撮影機能でも良かったと思います。私はカメラでシャッタースピードを 30 秒に設定し、あとは連写にしてレリーズ押しっぱなしで撮りました。

撮影の手順

事前準備

撮影は神奈川県の宮ヶ瀬湖で行うことにしました。都心から 1 時間くらいで行ける星空の名所ですが、都心に近いため馬鹿にできない光害もあります。この時期のアンドロメダ銀河は西から北西の空に沈むので、位置的に光害の影響が比較的マシかなという打算もありました。

当日の昼、SuperCWeather を見ながら現地が晴れそうであることを確認しました。また、私は iPhone の Star Chart というアプリで、何時頃にどちらの方角のどの程度の高さにアンドロメダ銀河があるのか、何時頃に沈むのか、というのを確認しておきました。

赤道儀ポラリエのセットアップ

三脚を立ててその上に極軸合わせ用雲台を装着し、そこにポラリエに極軸望遠鏡を付けて極軸合わせを行いました。極軸望遠鏡の説明書(PDF)には大変複雑な設定方法が書いてありますが、面倒くさいし、そもそも五等星はあまりはっきり見えないので、私は

  • 北極星をとりあえず真ん中あたりに持ってくる
  • 極軸望遠鏡のカシオペア座と北斗七星の方向をそれっぽく合わせる
  • その状態で北極星を [2014-2040] のそれっぽい場所に入れる

という手抜き手順で合わせています。

極軸望遠鏡を使用中のイメージ

赤道儀のセッティングが決まったら、赤道儀に付けた自由雲台にカメラを装着します。ポラリエの耐荷重は 2kg ですが、今回のカメラ&レンズだと余裕で下回るので安心です。

ポラリエに自由雲台とカメラを装着したイメージ

そしてカメラを天体の方向に向け、そこで 30 秒の試写撮影をして、星が動かずに点像として写っている(=赤道儀が問題なくセットアップされている)ことを確認します。

撮影

まず天体を探し、大体中心に来るようにします。私は目的の天体を探す時に先程紹介した iPhone の Star Chart というアプリを大変重宝しています。アンドロメダ銀河はカシオペア座から探していくと見つけやすいと思います。見つけたら、構図の中心に天体を配置します。構図の中心は一番レンズの品質が高い場所ですので、なるべく中心に近づけるようにしましょう(今回は面倒くさがって若干中心から外れたところで撮影しました)。

そして、ピントを合わせます。ここは一切の妥協をすることなく、徹底的に合わせます。ここのピントがわずかにでも狂うと、その後の撮影が完全に無駄になる可能性が上がります。実際に試写しながら、背面ディスプレイで出力を拡大して、完璧にピントが合っていることを確認しましょう。

そしてカメラのセッティングを決めます。30 秒で撮影するので、そこから逆算して ISO や絞り値を決めましょう。絞り値は開放に近いほうが良いでしょう。ここでも試写をして決めるのですが、私が背面ディスプレイで出力を確認していると、バックライト等の影響で明るめに見えてしまい、実際には露出不足になることが多い傾向があります。またここでの撮影結果は大変のっぺりした写真になるのですが、まあそういうもんだと割り切りましょう。拡大しても問題なく写っていることだけはしっかり確認します。

なお、撮って出しはこんな写真です。

ISO 640 / 180mm / F2.8 / SS 30 秒

正直に言うと、私は撮影時に「こんな写真だと加算平均合成してもあまり良い写真にならないだろうな」と思っていました。

なにはともあれセッティングが完了したら、そこからは撮影です。今回はレリーズでシャッターボタンを固定し、静音連写機能で撮影しました。カメラのインターバル機能を使っても良かったと思います。30 分の撮影をしようと決めていたので、合計 60 枚(ちょっと余裕を持って 62 枚)の撮影になりました。

家に帰ってからの編集作業

加算平均合成

さて、撮影が終わったらその画像を加算平均合成します。私は加算平均合成に Sequator という Windows 向けの無料アプリを利用しています。商用アプリだとアストロアーツ社のステライメージが有名ですね。

Sequator は RAW ファイルを処理してくれるので、私は RAW のまま 62 枚の写真を渡しました。Lightroom でレタッチした後の画像を TIFF で渡しても良いと思います。オプションで細かい挙動を調整出来るのですが、今回は全てデフォルトで特に設定することなく合成しました。その結果出来たファイルをクロップしたのがこちらです。

元画像がそんなによくないので、当然ながらそれを引き継いだ、大変のっぺりぼんやりした眠い写真になっています。しかし、この写真のデータからはノイズが大きく除去されていて、かつ Sequator が 16bit TIFF で出力してくれているので色情報も RAW 並にあります。なので、クロップしたものの、レタッチ耐性は未だ非常に高いと言えます。

Lightroom によるレタッチ

この画像を、思いっきりレタッチします!天体写真のレタッチはトーンカーブをいじるのが基本ですが、私は今回は派手派手にしたかったので、あえてトーンカーブをいじらずに Lightroom の「テクスチャ」と「かすみの除去」を両方 100% にすることでアンドロメダ銀河をあぶり出しました(足りなかったので、マスク機能で写真全体に「かすみの除去」と「明瞭度」の効果をさらに追加しています)。

レタッチは好みもあるでしょうし、レタッチ自体を好まない方もいらっしゃるとは思いますが、私は天体写真を「普通にやっても撮れない写真を何とか撮影しようとする努力」と捉えているので、画像処理によるレタッチは天体撮影の一部であり、どしどしやるべきだと考えています。一方で、存在しないものを書き足したり、もしくは存在するものを消したりする合成や編集は、それは天体写真のテーマからは外れるので明示したほうが良いだろうと考えています。

今回のアンドロメダ銀河の撮影に関しては、加算平均合成と Lightroom による画像処理レタッチのみでこの写真を作ることが出来ました。

こちらはページ上部の比較画像の再掲です。レタッチでここまでの写真になるのは、ちょっとした驚きですよね。元の画像の情報量が十分に多ければ、レタッチで意図通りの表現に近づける可能性が上がります。レタッチについては過去の記事でも紹介しています。是非あわせてご覧ください。

まとめ

今回の撮影では、天体撮影としてはそこまで高価ではないポータブル赤道儀に、これまたそこまで高価ではない望遠レンズの組み合わせを用いて、そこまで環境の良くない撮影地で撮影したとしても、ある程度の天体写真が撮れることを示せたのではないかなと思います。正直、この機材でここまで綺麗に撮れるとは思っておりませんでした。大満足です。

今回の撮影では、ポラリエと極軸望遠鏡・極軸合わせ用の雲台以外に天体撮影に特化した機材を使っておりません。普段の撮影で使っているような機材でも、赤道儀を用意するだけで意外としっかりした天体撮影が出来ることが伝われば何よりです。

もう少し良い条件だともう少し良い写真になるかとは思いますが、おそらく伸びしろはそこまでなくて、これ以上を求めるならば、やはりオートガイダーや天体望遠鏡などを用いた本格的な撮影が必要になってくるのではないかな、と思います。

ポータブル赤道儀のポラリエは傑作で、素晴らしい製品だと思います。このような天体写真のみならず、星景写真であと 1 段露出を増やしたいという時に「1/2速度」機能でサポートしてくれたり、複数の流れ星を 1 枚に表現する撮影などでも大きな大きな威力を見せてくれます。

ポラリエを使って、ふたご座流星群を 1 枚の写真に表現

星に関わる撮影に興味があるものの、赤道儀の購入に躊躇しているような方には良い候補になるかもしれません。使いこなしは難しいですが、基礎的な機能は一通り揃っているので、上手く使えば撮影の幅を大きく広げてくれると思います。ぜひ検討してみてください。