昨日は久しぶりの皆既月食でした。皆既月食は年に 1 回あるかないかくらいのペースで発生する天文イベントですが、次回が 3 年後の 2025 年、前回の皆既月食(2021 年 5 月 26 日)は全国的に曇りがちで見られない人が多かった、今回は天王星の食も皆既月食中に起こる超レアイベントだった、という諸々の条件もあり、大変盛り上がりました。
撮影データ:
焦点距離 20mm/絞り F6.3/シャッタースピード 10秒/ISO 100/比較明合成 901 枚、2時間30分10秒/2022年11月8日
私は拙著「都会で撮る 星の軌跡の撮影術 〜はじめて撮る人から上級者まで比較明合成による撮影の完全ガイド」の中で前回の 2021 年の皆既月食のインターバル撮影風の作例を紹介をしておりますが、前回は途中で雲が出てしまったために「皆既月食の軌跡写真」の撮影はあまりうまく行きませんでした。
昨日も SuperCWeather では雲が出る予報でしたが、失敗してもよかろうと桜田門まで行って撮影をしたところ、驚くほどの良い天気に恵まれ、皆既月食のみならず周りの星を含めて美しく軌跡を写すことが出来ました。月食中に地球の影に隠れた月は光の散乱によって赤く見えるのですが、赤くなっていく様子も鮮明に記録されております。まるで水飴のように伸びた月の表現は、多くても年に一度程度しか撮影機会のない珍しいものです。狙い通りの月食の表現を撮ることが出来て大変満足しております。
撮影方法
月食は時間の決まったイベントであり、また比較明合成による出力を考えると撮影中に設定を変更することは出来ません。よって比較明合成による月食の軌跡の撮影は、かなり難度の高い撮影になります。セッティングを決めるにあたって重要なのは撮影枚数です。128GB の SD カードがスロットに 2 つ刺さっており、α7R IV の RAW 画像は 1 枚約 120MB なので、全部で 2000 枚程度しか撮れません。2000 枚で最大 4 時間撮影することを考えると、1 枚あたり 8 秒以上しか使えない計算になります。なのでシャッタースピードは 10 秒あたりで固定する必要があり、ISO も 100 にしたかったので、そうなると F 値を絞って調節するしかありませんでした。
その前提で、当日は試し撮りを何枚かした結果、勘で F 値を決めました。皆既月食中の月はとても暗くなるのですが、それでも肉眼で十分見える程度の暗さです。星の軌跡の撮影は肉眼で見えないレベルの星もしっかりと撮れるので、暗い月を考慮するよりも明るい月が明るすぎずに写るよう考慮する方が望ましいと判断しました。F6.3 はあまり星の撮影では利用されず、ちょっと不安でしたが、結果的には良い写真につながったと思います。
撮影後はスターペンギンを使って比較明合成をします。何も設定をせずに比較明合成をしたのが下の写真になります。
ちょっと飛行機の後が目立ったので、大きく写っている 3 本の飛行機跡を消すことにしました。飛行機跡の消し方の詳細は上記の書籍中にて解説しておりますので、興味のある方はぜひお手にとってご確認頂けましたらと思います。
また、皆既月食の様子をインターバル風味に比較明合成した写真もご紹介します。
これも拙著で解説しておりますが、月は大体 150 秒ごとに撮影すると重ならずに写すことが出来ます。この作例は 250 秒、25 枚に 1 枚の割合で合成して皆既月食の様子を表現したものになります。この表現は比較的メジャーなので、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。拙著では、皆既月食のインターバル撮影風の合成の様子などについても解説しております。
最後に
どれだけ準備を整えても当日の天候でまったく撮れなくなるのが天文イベントなのですが、その分わずかなチャンスを上手く物に出来た時の喜びもひとしおです。今回も非常に上手く撮れたのですが、事前にどこで撮るかをしっかり決めていなかったのが心残りではあります。次回の皆既月食は深夜から明け方にかけて発生する予定ですので、景色も含めてしっかり精査して撮影に臨みたいところですね。
書籍紹介
本文中で何度か言及した書籍のリンクはこちらです。具体的な空の良い色・悪い色などの見分け方、スターペンギンの使い方、レタッチのやり方などの話は、こちらの書籍で詳しく紹介しています。もし興味を惹かれましたら、是非お手にとって頂ければ幸いです。